五百年前の記憶
〜オリジナル小説〜
著者:レティ
「いらっしゃいませ、ルーティクス美術館へようこそ」
ボクはいつもこの決まり文句でお客様を出迎える。
けれど今は誰も居ません。お客様の姿なんて、館内全部をどれだけ探しても影も形もありません。
だから、ボクは大通りに出て美術館へ来てくれるお客様を探しに出る。館長は美術館に呼び込みなんて不必要だと言うけれど、やりたいようにやってもいいって許可は出してくれました。こうでもしないとずっと続く戦争のせいで、美術品を見てくれる余裕のあるお客様なんてほとんどいない。たまに来てくれるのは銃を手にしたお客様で、館内規則により退去してもらっている。
ルーティクス美術館は由緒ある美術館で、運営費も国から出てるから倒産なんてしないって清掃員のファルスさんは笑うんだ。でも、誰も来ない美術館に運営費を払ってくれる程、国も余裕があるわけでもないって受付のミーティアさんが言ったんだ。それが心配でボクは呼び込みを続ける。
あ、申し遅れたね。ボクはLMT−3。長い名前で言うとレディモデルタイプスリー。ロボット生産事業の独占許可を得ているリスティ社の開発した3番目の機体シリーズの一つ。担当はルーティクス美術館の接客業務を勤めさせてもらっています。でも、呼び名はLMT−3でも長いのか、美術館のみんなからはラムって呼ばれてます。ロストされた館長の娘さんの名前と同じなんだね、と名前の関連性についてのデータをお持ちの方は口を揃えて言うよ。
「いらっしゃいませ、ルーティクス美術館へようこそ」
大通り、つまり美術館の前で音声を出します。声は大きすぎず、小さすぎず、慎重に調整をして。以前、ボリュームを最大にして呼びかけたらビックリされて、副館長のラピスさんから厳重に注意されちゃった。どこか故障したんじゃないかって、緊急メンテナンスもされちゃったよ。そういえば、メンテナンスも長い事してないよね。そう考えて自己診断ツールを起動してみる。
三秒で結果が出たよ。結果は自己診断ツール自体が破損、起動できなかった。最後にメンテナンスを受けてから、あと二十二時間三十六分二十二秒で二十年になります。ボクの耐用年数は十年保証。カスタマイズとバージョンアップで三十年は使えます、が売り文句だったけれど、三十年になったらボクは処分されるのかな?
ボクには感情プログラムが搭載されてないけれど、ボクの思考データから判断すると美術館が大好きなんだって判断しているそうです。それを知った時、ボクは嬉しいと考えたとも聞いています。だから、できればこのまま美術館で働かせてもらえると、再び嬉しいという判断をするのだろうね。
「いらっしゃいませ、ルーティクス美術館へようこそ」
最後の呼びかけを終わらせたボクは、美術館へ戻っていきます。今日も大通りを誰一人通りませんでした。美術館も来客がありません。それに職員のみなさん、ファルスさんもミーティアさんもラピスさんも館長もみんな遅刻無断欠勤だね。
ボクは美術館を閉める業務へと取り掛かります。お休みされてる方の分は、お互いに助け合うのがこの美術館のルールです。
最近、美術館にお客様がいらっしゃいません。
だから、ボクは、ずっと貴方が来るのを待っているんだよ?
いつか、この言葉を贈り届けるために。
「いらっしゃいませ、ルーティクス美術館へようこそ」
おしまい☆