神様の消し忘れ
〜オリジナル小説〜
著者:レティ
朝、目が覚めた時はいつも通りだった。
私の部屋から洗面所へ起き出し、顔を洗う。それから髪を洗ったのだけれど、ドライヤーが動かず、故障したのかと思ってタオルで拭くだけにしておいた。寝癖だけは、何とか直したけれど。
それから朝食を食べにリビングへ行く。いつもなら、母さんが朝食を作って、父さんは新聞を広げている姿が見えるはず、だった。
それが今日は二人の姿はなく、朝食の用意もされていない。急用でもできたのかと思ったけれど、置手紙の一つも残されていなかった。
仕方なく何か探そうと冷蔵庫を開けるが、調味料さえも残っていない。普段は忙しいからと食べない朝食も、無いと分かれば食べたくなる。不思議なものだ。
私は部屋へかばんを取りに戻ると、学校へ行く事にした。いくらお腹が空いていても、学校前にはコンビニがある。そこまでの辛抱だと思って、誰も聞いていない出かけの挨拶をして家を出た。
そして異常に気づいた。道を誰も歩いていない。建物の中にも人の気配を感じない。最初こそ、時間はあるからとゆっくり歩いていたが、段々と恐怖に覆われ急ぎ足となっていく。歩いても、走っても。誰一人として存在していない。やがて学校へ到着した私は、空腹の事も忘れて人を探した。
――誰も、いない。
探しても探しても誰もいない。色々な理由が頭の中を駆け巡った。
そして、思い至る。世界はきっと滅びたんだ。それなのに何かの間違いで、私一人が消し忘れられたんだって。
私は生まれて初めて真剣に祈った。今なら神様を信じます。だからしつこい宗教の勧誘の人でもいいです。誰か、出てきて下さいって。
でも神様は私の願いを聞き届けてはくれなかった。
しばらく身動きできなかった私だったけれど、やがて空腹という現実に引き戻された。学校を出ると目の前のコンビニへ入る。そこで食料を手に入れようと思ったのだ。
だが、その当ては外れる。無情にもコンビニの中にはパン一つ、いや商品は何一つ置いていなかったのだ。嫌な予感がして私は走って近くのお店を覗き込んだ。
そこには何一つ食べ物はなく、それどころか道具一つも見当たらない。これはどういう意味だろうか。人はおらず、食べ物も無い。つまり、このままでは私は飢えて死ぬ運命にある。
そんなのは、嫌だ。私は決意して山へ登った。
山には木がある。探せ木の実、探せ食べられる植物。何が食べられるか、何が食べられないか、知識は無いけれど。動けるうちに何かを探し出さないと、私は間違いなく力尽きる。
そんな事を考えながら進み、やがて山頂まで辿り着いてしまった。
そして、愕然とする。山の向こうには海があるはずだった。すくなくとも、昨日までは。けれど、今は、大きくて長い坂が見えるだけだった。
それを見て私は近くの木に寄りかかるようにして倒れこんだ。
ああ、人類って結構簡単に滅亡するんだな、って思って。絶望した。これ以上私が生きていくのは無理だ。慣れない山歩きで疲れていてもう動けない。
動けるぐらいに疲れが取れるまで時間が経ったら空腹できっと動けない。つまり、私は死ぬまでずっと動けない。そんな理論が展開されて、悔しくて涙が出た。
すると、その涙を拭いてくれるかのように、ほんのささやかな風が私の顔を撫でる。甘い、香りがした。
見れば、花が咲いている。誰が植えたのか、それとも自然にできたのか。
綺麗な花畑がそこにはあった。
――花って食べられないのかな。花の蜜って集めれば蜂蜜なんだよね。そう思って手を伸ばし、一輪の花を摘むとその蜜を吸い込んだ。
それは、とても甘い味がした。ほんの少しだけ、生きる意欲が戻ってくる。うん、やっぱり生きているって素晴らしい。こうやって食べられる物もあったんだ。きっと他にもあるに違いない。
私は神様の消し忘れで生きて行こう。消し忘れは消し忘れらしく、ね。
おしまい