あやしき日々2005.2.9〜2005.2.28


2005.02.22 クロフツ作品を初めて読む方へ 

2005.02.21 映像の魔術師を動かしたのは? 

2005.02.17 ミステリの中のマジック・シーン 第二回 

2005.02.09 ミスディレクション−マジックとミステリ 

2005.02.01 プレゼンテーションの名の下に作られる退屈な時間 

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2005-02-28月
その1

 久しぶりに古本を数冊買った。
 1冊はこの本。

 
カーター・ディクスン『ユダの窓』(Carter Dicson 「The Judas Window」1938年作品、砧一郎訳 早川書房 ハヤカワ・ミステリ文庫1978.3.31発行 1978年当時定価¥440 古書値¥400)

 持っていなかった依光隆カバー絵文庫を「ジャケ買い」したのだ。

 『ユダの窓』の密室は子供向け推理クイズ本なのでおなじみのトリック。
 江戸川乱歩が好んでいたこの密室トリック、はっきりいって誰もが少し考えれば思いつきそうなトリックである。
 「驚天動地のトリック」とトリック本や解説本などで説明されているのを見ることがあるが、この文庫の裏表紙あらすじにも「巧妙なトリック」とある、初めてこのトリックを見た(読んだ)子供のときどこが驚天動地なのだ?とそれを理解できなかった。

 かなり前徳間書店から数号のみ出ていた推理小説専門誌『ルパン』で、たしかこの雑誌だったはず、中井英夫が「『ユダの窓』の密室トリックにはがっかりした」とそういったたぐいのことを書いていたのを見て自分だけがそのように思っていたのではなかったんだと子供ごころに安心したおぼえがある。
 そのとき中井英夫のことをなにやら難しいミステリを書いた人だぐらいしか知っていなかったのだがミステリを書く大人でもそう思っている人がいるんだと。

 そういったわけでそれから数年後『ユダの窓』がハヤカワ・ポケット・ミステリで改訳復刊され読めるようになったとき「あの密室トリックかぁ、でもカーター・ディクスンだしとりあえず読んでおくか」と読み始めた。

 ところがこれがおもしろい。

 『ユダの窓』は、密室トリックに依存した話ではなかったからだ。
 密室トリックそのものは二の次三の次、とりあえず密室になっていればトリック自体はどんなにばかばかしいものでもかまわないお話だったのである。

 『ユダの窓』はカーター・ディクスンの法廷ミステリ。
 それもとてもおもしろい法廷ミステリ。

カーター・ディクスン『ユダの窓』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

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2005.02.22(火)

<日々雑感>

クロフツ作品を初めて読む方へ

 参加しているミステリ読書人の集まったメーリングリストの中で、「クロフツの『樽』の新訳が出ましたね、未読なんですが読んでおいたほうがいいのですか」と質問がありいくつかやりとりがあった。

 ここに書いた文章はそのときのものを書き直したもの。

 クロフツを初めて読む人、あるいは再読してみようという人向けに自分なりの考えをまとめたものである。

 *    *    *    *

 クロフツの作品は謎を解くことを主にした謎解きミステリでだが「犯人を当ててごらん」型あるいは「犯行方法がわかるかい」型のミステリとは少し色が違う。

 クロフツ作品は捜索型のミステリ。

 あらかじめ伏線がはってあってその伏線に気づけば読者は作中の探偵より早く犯人や犯行手段に気づくミステリ、では無い。

 読者の前に犯行・犯行手段を推理する鍵となる事実が明らかになる時と作中探偵がそれに気づく時が同じなのである。
 言いかえれば、探偵が鍵を発見したそのとき読者にも同時にそのことを知らされる。
 伏線が無い謎解きミステリ、読者に挑戦しない謎解きミステリとも言っていい。

 たまたまなのだが光文社文庫の江戸川乱歩全集で出たばかりの第25巻『鬼の言葉』を読んでいたら乱歩がクロフツのことについて書いている文章を目にした。

<犯人の側にはすばらしいトリックが用意されているけれども作者が読者に投げかけるトリックは皆無である>
<犯人は手品を使うが作者は手品を使わない>

 乱歩はうまいことを言っているなぁ。
 ただ、クロフツの全作品に作者の手品が無いのかというとそうでも無いのでは?と思うのだが。

 じゃあ、作者が読者に投げかけるトリックが無いのだからつまらない謎解きミステリじゃないの?という問いかけ出てくるかもしれない。
 そのようなことはない。
 クロフツ作品はけっしてつまらないミステリでは無い。

 試行錯誤を繰り返して事件の真相にせまるプロセスがなんとも楽しいミステリなのである。
 ゆったりとした展開も心地良い。
 また、事件の性質上探偵役はイギリスのあちらこちらを、時には海外まで出かけていくのでその風景描写も楽しい。

 *    *    *    *

 だが、『樽』(創元推理文庫、ハヤカワミステリ文庫、集英社文庫、ハヤカワ・ポケット・ミステリもまだ現役のようだ)を最初に読むクロフツ作品にしないほうがいい。
 ゆったりしすぎる展開の上にイギリスらしい渋いお話、そして少し複雑だからだ。
 クロフツ作品があまり読まれていないのは最初に『樽』を読みそのスローテンポについて行けず他の作品を読む気が失せるからだ、という説もある。

 自分も最初のクロフツ作品は『樽』だった。
 二昔前ほどはミステリ・オールタイム・ベスト表には必ずといっていいほど入っている作品なのでクロフツを読むときまずは最初に手が出る作品だったので。
 読み終わっての感想は、おもしろくないとは言わないがゆっくりしすぎのテンポがまどろっこしく退屈だった。
 それでも海外ミステリ読みとしてはクロフツを何作か読んでおかなければならないだろうと創元推理文庫で何冊か出ていた『樽』以外の1、2冊を読んでみたのだがやはりまどろっこしくてその1、2冊で読むのをやめにしてしまった。

 ところが、30代になってから何気なく手に取った『マギル卿最後の旅』(創元推理文庫)を読んでみればこれがおもしろい。(クロフツ作品のテンポに合う年齢になったとうことかもしれない)
 おもしろいので続けてクロフツ作品を十数作読んでみてわかったのは、『樽』はクロフツ作品の中でもかなりゆったりしたテンポの作品であること。
 これは処女作だからと緻密に作ったからでそれが展開を遅くしてしまったのかもしれない。

 そういったわけでもともと現代に合わないテンポのクロフツ作品群の中でも遅い部類に入る『樽』は最初のクロフツ作品として薦められない。
 つまらない作品では無いので、ある程度クロフツ作品に慣れてから読むのがいい。

 *    *    *    *

 最初に読むのであれば『スターベルの悲劇』(創元推理文庫)。
 展開がクロフツ作品の中では早いほうであるのと、作者が読者に投げかけるトリックがある数少ない作品だからだ。

 『スターベルの悲劇』を楽しめたなら次は『英仏海峡の謎』(創元推理文庫)か『マギル卿最後の旅』(創元推理文庫)あたりか。

 この3冊を楽しめたのであればそのあとはどのクロフツ作品も楽しめる。
 クロフツは出来不出来の差があまりない作家だからだ。

 個人的には冒険小説色の濃い『フレンチ警部とチェインの謎』(創元推理文庫)も好きな作品。
 倒叙ミステリの『クロイドン発12時30分』(創元推理文庫)もおもしろい。

 

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2005.02.21(月)

<本日の魔術>

映像の魔術師を動かしたのは?

 NHK−BS2毎週日曜日9時はその週に放映する映画をクイズ形式で紹介する『映画ほど!ステキなものはない』

 22日火曜日20時からの衛星映画劇場はサスペンス映画の傑作
『第三の男』(The Third Man、1949年イギリス作品)。

 それにちなんでのクイズが。

「ハリー・ライムを演じたオーソン・ウェルズはすでに天才監督としての名声をほしいままにし、『第三の男』の監督キャロル・リードにもいろいろと助言していた。

 ただ、このオーソン・ウェルズ、とってもわがまま。
 スタッフは手をかえ品をかえ機嫌をとっていた。

 ホテルの部屋からなかなか出てこないオーソン・ウェルズに、ある人物をつれてきて部屋から出させることを成功したのだが。

 さて、どのような人物をつれてきたのか?」






 答えは。マジシャン。

 スタッフはホテルにマジシャンを連れていき、「もしホテルから出てくればこのマジシャンがいくつかマジックを見せてくれる」と告げつれだすことに成功した。
 当時のプロデューサーの甥が言っていることなのでたぶんほんとうのことなのだろう。

 マジックにもうるさいオーソン・ウェルズに、見たいと思わせたマジシャンって誰だろう。

グレアム・グリーン『第三の男』(早川書房 ハヤカワepi文庫)
グレアム・グリーン『第三の男』(早川書房 ハヤカワepi文庫)

 *     *     *     *

 オーソン・ウェルズはアマチュア・マジシャンとしても有名だった。

 たくさんの写真が、映像もいくつか残っている。

 デヴィッド・カッパーフィールドの1回目のテレビ・ショーにゲスト出演したときのものを見たことがある。
 演じているメンタル・マジックの現象に比べて演技が大げさすぎるというところが無きにしもあらずなのだがそれがまたオーソン・ウェルズらしくておもしろい。

 映画で演じている場面やデヴィッド・カッパーフィールドの14回目のテレビ・ショーに少し変わった形で再出演したときの話などはまたいつか。

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2005.02.17(木)

<本日の魔術>

ミステリの中のマジック・シーン 第二回

 2004年話題になったミステリを読んだ。
 その中でマジックシーンがあったので久しぶりに第二回を。

●乾くるみ「イニシエーション・ラブ」
 原書房 ミステリー・リーグ 2004.4.5発行 定価¥1,600+税


 話は始まったばかりの18ページめ、合コンの席で登場人物の一人北原が百円玉4枚を使ったコイン・マジックを始める。

「青島さんが途中で余計な手出しをしたのだが、北原はまったく慌てたそぶりも見せずに、左腕を押さえ込まれた状況のまま、見事にコインを移動してみせたので、僕はビックリしてしまった。
 たぶんそういう邪魔が入ったときでも、うまく見せられるように、手順の中に何らかの工夫が施されていたのだろう。」

 マジシャンがマジックを見せているとき、テーブルの上にあるトランプをいきなりひったくる人、マジシャンの握った手を無理やり広げようとする人をときどき見かける。
 これはそのような行為に観客を走らせてしまうマジシャン側に責がある。

 そのようなことが起こらぬようなんらかの対策を、例えば、むやみに手を出すとその場の雰囲気がこわれてしまうよといったオーラをかもし出す、あるいは、「テーブルにおいたこのカードは魔法のカードです。途中で誰かがめくると魔法の効力が失われてしまいます。最後になるまで誰の手にもさわられていないことを見ておいて下さい」と言っておく、などなどを打つのだがマジシャンの力およばずこういった妨害に合うことがある。

 そう。
 見る側に悪気が無かったとしてもこの行為は、マジシャン側から見ればこの場を支配することができなかった自分の落度であると頭の中でわかっていても感情面では妨害にしか見えないのである。

 そのようなときどう対応するか。
 一つの方法は北原がとった方法。

「噂によると彼のマジックは玄人はだしで、それは手先の器用さだけでなく、当意即妙の受け答えなどといった点も加味した上での評価なのだという。
 どんな事態にも冷静に対処できる器用さが −少なくともマジックを演じているときの彼には− 備わっているのだろう。」

 これは、「器用」と呼ぶよりマジシャンから見れば「優れた感覚」と呼んだほうがいいだろう。

 本筋とは関係ないが印象に残った場面なので今回とりあげてみた。

 *     *     *     *

 北原ほどの「優れた感覚」を持ち合わせていないマジシャンはどうすればよいのか。

 一つは、手を出されて困るマジックを一切演じない。

 もう一つは、マジックをその時点でやめてしまう。
 ただしこれはアマチュア・マジシャンのみにかぎって。
 またその場の雰囲気を壊してもかまわないと開き直った場合だけ。
 そして手を出してきた人が「二度とマジックなんか見てやるものか」と思ってもいいのであれば。

 プロ・マジシャンの場合はそうもいかない。

 *     *     *     *

 今回の話題についてそのうちあらためてもう一度。
 
 『イニエーション・ラブ』の感想はそのうちに。 

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2005-02-15火
その1

 
上遠野浩平『禁涙境事件 some tragedies of no-tear land』(講談社 講談社ノベルス 2005.1.10発行 定価¥920)

 上遠野浩平のSFミステリ「事件」シリーズの4作め。
 竜が棲み魔道師が操る魔法で支配される世界でおこる事件を解き明かすのは仮面をつけた戦地調停士ED。
 似ている作品をあえて探すと雰囲気はまったく違うがランドル・ギャレットのダーシー卿シリーズか。

 ロジック・ミステリとしては1作めの
『殺竜事件』(講談社ノベルス 2000.6発行)が一番。
 ケレンあふれるミステリとしては2作めの『紫骸城事件』(講談社ノベルス 2001.6発行)が一番。
 ファンタジイとミステリのバランスが一番とれているのは3作めの
『海賊島事件』(講談社ノベルス 2002.12発行)。

 4作めの『禁涙境事件』は、連作短篇形式のサイコ・ミステリ色が濃い伝奇ファンタジイだ。
 ミステリよりもファンタジイのほうが前に出ているのでミステリを期待した人間にとっては物足りない。

 でも、なにやら得体のしれないものが出てくる第4章が楽しめたので、まる。

 *     *     *     *

 魔導戦争の隙間にある非武装地帯。
 その名は禁涙境。
 数十年の間に積み重なった悲劇の果てに訪れた大破局に、大地は裂け、街は震撼し、人々は喪った夢を想う…。
 そしてすべてが終わった廃墟にやってくる仮面の男・戦地調停士EDがもたらす真実は?

上遠野浩平『禁涙境事件』(講談社ノベルス)

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2005-02-13日
その1

 プロ・マジシャンのヒロ・サカイさん(最近のテレビ番組では「HIRO」の名で出演されていることのほうが多い)が、2005-02-12の日記に「推理作家のH.K.氏とY.T.氏に」会われたこと、お二人ともマジック好きで「特にY.T.氏はマニアの域に達している」と書いている。

 推理作家のH.K.氏とY.T.氏とは誰のことだろう。 

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2005-02-12土
その1

 チャンネルNECO放映中の
『射ちょう英雄伝』、2005-02-11(金)放映は第11話「二人の父」と第12話「別離」。

 *     *     *     *

 第11話は郭靖と黄蓉が完顔洪烈の宮殿に薬を盗みに入る話がメイン。
 見所は歩けないので郭靖に背負われた梅超風が欧陽克たちと戦う場面。
 梅超風が登場するときあたりは一面蒼くなりかならず逆光となるところと九陰白骨爪がアニメチックに描かれていておもしろい。

 小説版では梅超風は老婆と書かれていたがこのドラマ版ではかなり若い。

 *     *     *     *

 第12話は楊鉄心と包惜弱の話がメイン。
 丘処機が派手に再登場。
 このドラマ、武術の達人たちはいつも派手な登場をする。
 門(神社の鳥居ぐらいの大きさ)や二階建ての屋根を飛び越えてくる。

 *     *     *     *

 次回が待ち遠しいが原作は読んでいるのでDVD−BOXはあえて買わず借りず毎週の放送を見続けていくつもり。
 第12話まで終わって原作5巻本の2巻め4分の1あたりまできた。
 次回はそろそろ五大武術家の一人・北乞登場か。

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2005.02.09(水)

<本日の魔術>

ミスディレクション−マジックとミステリ


 マジックには2つのミスディレクションがある。
(このあたりは高木重朗さんの『魔法の心理学』(講談社現代新書)や『トリックの心理学』(講談社現代新書)からの受け売り)

 *    *    *    *

 1つは物理的ミスディレクション。

 舞台のマジシャンが突然「あっ」と叫びあっちを指さす。
 観客があっちを向いている間にマジシャンはこっちでこっそり秘密の動作をする、これが物理的ミスディレクション。

 もっとも上に書いたような『「あっ」と叫びあっちを指さす』をマジック・ショーなどで行なったとしても誰もあっちを向いてはくれず、それはギャグにしかならない。
 実際の物理的ミスディレクションはもっと巧妙だ。

 ミステリ作家でこの物理的ミスディレクションが上手だったのがクレイトン・ロースン。

 小説家としてはだめだめだったがマジシャンでもあったロースンは比較的だめだめぶりがバレにくい『この世の外から』(創元推理文庫『魔術ミステリ傑作選』所収)などの短篇では名トリックミステリと呼んでいい作品を書いている。

 *    *    *    *

 もう1つは心理的ミスディレクション。

 例えばマジシャンが観客になんの変哲もないある物あらためさせ、それをしかけのある物にすり替えるとする。
 マジシャンは観客にわからないようにすり替えるわけだが、観客の目の前で堂々とすり替えていながらそれを見たことを観客に忘れさせてしまう、あるいは観客からはマジシャンがまったく別の動作をしていると思わせてしまう、これが心理的ミスディレクション。

 具体的な例をあげたいところだがマジックのタネ明かしになってしまうのでやめておく。

 ミステリ作家で心理的ミスディレクションの名手はアガサ・クリスティ。
 読者を真相とは違う方向に導いていくその技はまさに名人芸。

 *    *    *    *

 いきなりマジックのミスディレクションの話から始めたのは以前読んで感想を書き忘れていた本のことを思い出したから。

 *    *    *    *

ジェフリー・ディーヴァー『魔術師』
(「The Vanished Man」2003年作品、
 池田真紀子訳 文藝春秋2004.10.15発行 定価¥2,200)

 で、感想を書くのかと言えばそうでなく、本日はその周辺についてだけ話しておく。

 第8章で、マジックのことを知ろうとリンカ一ン・ライムによばれたマジシャンのたまごカ一ラがマジックのミスディレクションとは何か、物理的と心理的の違いを説明する場面がある。

 これがすばらしい。

 文章だけでマジックのミスディレクションを説明するのはとても難しいのだ。
 マジックとミステリを好きな人はこの章を読むだけでも価値がある。

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 で、お話のほうは。
 3作め、4作めでは趣向を変えてみたもののそのためかえってパワー・ダウンしてしまったリンカーン・ライムものだがこの5作めでは調子を取リ戻したようだ。
 本書では本来の「怪人対名探偵」の図式に戻し真っ向勝負をしている。

 密室からこつ然と姿を消す殺人鬼、二転三転するプロットと読み応え十分だ。

 もっとも最初の密室からの消失はマジックのトリックを使っているのでタネを明かせばあっけない。
 マジシャンがタネ明かしをこばむのはあまりにもそのタネがシンプルなのでそれを知ると観客が拍子抜けしてしまうからだということがマジックをしない人にわかってもらえるだろうなと思えるほどあっけない。

 また、この作品、ディーヴァーと言えば読者サービス過剰の連続ひっくり返しと、ひっくり返すためだけのひっくり返しを書くジェット・コースター・ノベル作家なのだが、本書ではストーリーにふくらみを持たすためにこのひっくり返しを使っていてそこも注目したいところだ。

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 さて、マジックと言えば2人の作家を忘れてはいけない。

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 1人は不可能犯罪ミステリの巨匠、ジョン・ディクスン・カー(別名カーター・ディクスン)。

 もっとも、カーはマジックの知識は豊富だったが自身がマジシャンでないせいもあって考案したトリックはマジック的ではなくやや強引。

 まぁ、そこがカーの魅力の1つなのだが。

 同趣向の不可能犯罪をあつかったカー『爬虫類館の殺人』(創元推理文庫)とクレイトン・ロースン『この世の外から』を見比べればそれがよくわかる。

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 もう1人は、紋章上絵師でありマジック創作家でありミステリ作家の泡坂妻夫さん。
 泡坂さんのミステリ作品は、特に初期から中期にかけての作品はどれもマジック色が濃く出ている。
 それは心理的ミスディレクションの変形の・・・・。

 と書き始めたもののカー作品と泡坂作品のトリックやミスディレクションのマジック的なところ、を書くと長くなるし考えがまとまっているわけでもないので次回の宿題。

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